パトロンが欲しい

僕が近所の居酒屋をひいきにしているのは、そこの従業員であるマキさんに惹かれているためだ。
接客担当は別にいて、マキさんは客席に背を向けてひたすら料理をしている。
調理と盛り付けを終えてカウンターに料理を置くために振り向くその姿がいい。そして、見上げている僕と目が合うと、軽く会釈をしてくれる。
僕は昔から女性の料理人に艶気を感じるのだ。無骨な食材を見目麗しい料理に変化させる女性は美しいものだ。
もちろん、料理の腕もいい。マキさんの和風の味付けは薄すぎず濃すぎず食材の本来の味を邪魔しないいい塩梅だ。特に鯛のすり身を落としたすまし汁は逸品だ。
自分で店を持とうとか思わないの?と、店長が席を外している隙に料理を出してきたマキさんに聞いてみた。
「独立資金を出してくれるパトロンが欲しいところですね」
そう言って、マキさんは笑った。
僕はパトロンになれるほどのお金は残念ながら持っていない。ただ、わずかではあるが援助できるくらいのお金ならば用意できないことはない。
パトロンになる代わりにセフレになってくれないかな?なんて言葉が出かかったりする。まあ、これを言ったら、単なるゲス野郎なのだけど。
パトロンが欲しい
独立したらマキさんの店に鞍替えするからね、と冗談っぽく言うに留めた。
するとマキさんは店長の様子を気にしつつ、嬉しそうに目を細めてくれた。
それから、3か月後。マキさんは、その居酒屋の経営者になっていた。
もともと売却を考えていたオーナーから自分が買い取ったのだと言う。もちろん、タダではなく借金は背負ったそうだ。
店長になってもマキさんは、これまで通り、僕に背を向けて淡々と料理をしていた。ピンと伸びた背筋と調味料を合わせる手つきが更に艶っぽさを増した気がする。
どれくらいの借金を背負ったかは聞けなかったが、少しくらいなら援助をしてパトロン気分を味わいたいな、と思った。
すると、マキさんは僕の手前に料理を置きながら言った。
「ボトルを入れていただけるなら、私にとってはパトロンですよ」
僕が考えているより、マキさんは料理だけではなくて商売も上手っぽいようだ。
きっとセックスも上手なのだろうなと、僕はマキさんの白魚のようなきれいな手先を眺めつつ、変わらぬ味の鯛の澄まし汁を頂いた。
ワリキリ
わりきり

Comments off